レースリポート
尾関宗園和尚に学ぶ 「これだと決めたら積極的に現場に体を持っていく」
2022.07.31
130期、登録番号5241号の門田栞(かどた・しおり)【写真2枚】はデビュー以来30走しているが、まだ5着以上がない。同期の中で最も苦しんでいるひとりだ。
養成所リーグ戦勝率3.87。「守屋美穂選手(岡山)が男子を破るレースを間近で見て…」志したボートレースの世界は、高校時代に取り組んでいた漕艇競技とはまったく異なるもので戸惑いが大きかったという。
心が折れそうになる中、父からの「自分に負けるな」の言葉に励まされ養成所時代を過ごしてきた。
ともすれば観る者は、門田栞のような若者に対し「高みの見物」をしてしまう。しかし、よくよく考えれば、誰もが門田栞なのである。それは、成長を共有し喜ぶ源にほかならない。
京都・大徳寺大仙院の閑栖、尾関宗園(おぜきそうえん)氏からサイン入りで頂戴した書にある教えが思い浮かぶ。閑栖は“かんせい”と読む。隠居した禅僧のことを指す仏教用語だ。
尾関宗園和尚は1965年から2006年まで、およそ42年にわたり大仙院の住職を務め、数限りない法話をおこなってきた「名物和尚」である。
宗園和尚から頂いた『今こそ出発点』という書にはこうある。
「今こそ出発点
人生とは毎日が訓練である
わたくし自身の訓練の場である
失敗もできる訓練の場である
生きているを喜ぶ訓練の場である
今この幸せを喜ぶこともなく
いつどこで幸せになれるか
この喜びをもとに全力で進めよう
わたくし自身の将来は
今この瞬間 ここにある
今ここで頑張らずにいつ頑張る」
京都大仙院 尾関宗園
1509年に創建された大徳寺大仙院は千利休が訪れていたことでも知られ、本堂は日本最古の床の間と玄関をもつ方丈建築。国宝に指定されている。
室町時代の花鳥図などのほか日本を代表する枯山水がつとに有名で、とりわけ枯山水には人の一生と重なり合う物語性があり、訪れる者の心を動かす。
「静」の働きである。
一方、宗園和尚の法話は「動」の働き。
「今こそ出発点」と老若男女を問わず鼓舞してくれる。
「今ここで頑張らずにいつ頑張る」は、50年以上前から和尚が口にしてきたことばだ。
「分別があるから、身動きが取れない」
「力を抜く、もっと力を抜く」
「空っぽであること、これがふるさとであり、スタート」
「愛してもらうなど、受け身の世界に喜びはない」
などの至言を用い、どれだけの人を励ましてきたか分からない。
影響を受けた多くは、修学旅行で寺に初めてやってきた中高生である。
その教えの中のひとつに「これだと決めたら積極的に現場に体を持っていく」がある。
断られても断られても、失敗しても失敗しても…「現場に体をもっていけ」というのである。
ともすれば、頭で考えマニュアルに照らし合わせるのが普通だが、「マニュアルはない。つじつまの合わない人間でいい」と、勇気を与えてくれるのだ。ただ、現場に体をもっていけ…と。
当然、教えはケースバイケースではない。
あらゆる世界、あらゆる出来事にあてはめて考えることができよう。
ボートレーサーとてそうである。
「6着になっても6着になっても水面にボートをもっていけ」と読み替えてもいいだろう。
たとえ次走で結果が出ずとも、常に「今こそ出発点」なのである。